「負け組おんらいん」 @お子様

真実の10メートル手前

真実の10メートル手前


名作ですね。




物語としての面白さはもちろん王とサーカスに軍配が上がります。異国の描写・ミステリー作品はさることながら、ジャーナリズムの在り方についての論点の提起も素晴らしい。


しかし、その長編を差し置いての真実の10メートル手前の完成度の高さ。


冒頭の表題作。正直、「盛り上がりに欠ける作品だ」と感じてしまいました。
ミステリ要素も古典的かつ王道的で、カタルシスを覚えるようなものでもない。


読解力の無い自分は、「名を刻む死」まで読み進めてようやくこの作品の意図に気づきました。
ミステリーとジャーナリズムの親和性、そしてそこから描かれる一人のジャーナリストの価値観・考え方。


しかし、読者は途中で疑問を覚えるでしょう。
太刀洗万智はジャーナリズムの理想の一つかもしれない。ただ、これは理想論が過ぎるのでは無いか?」
そこに提示される最後の"綱渡りの成功例"。そして、"王とサーカス"。
短編集としてのまとまりも完璧で、シリーズとして読み進めていくことで一人の人間がどんどん鮮明になっていく。


古典部、小市民シリーズを早く!と願っていました。
作家としての技量をこれだけ見せ付けられると、満足のいく作品になるまでじっくり寝かせまくってください。という気持ちにもなりますね。