前作の感想はこちら

第13回電撃小説大賞<金賞>受賞作の続編。同期の受賞者の中で最初に二巻目を出したことになるのか?まあ受賞者が全員そのまま書き続けるわけでもないだろうが。


前作は、露骨なメタファーで構造を浮かび上がらせておいて、最後にそれを丸ごと裏切ってみせるという大技が奇妙な面白さを放っていた。ついでにいうと、二つ目の扉を発見するくだりは、主人公たちが自発的な認識転換によって発見したというよりは、作者により作為的に与えられたように読め、ゲームを上から眺めて楽しんでいる悪趣味な真の観察者は読者だ、という皮肉だと取る読み筋も可能だろう。まあいずれにせよある種の一発芸なわけで、続編を出すと聞いたときはびっくりしたものだ。


まあ結果として、今作も順当に面白かった。とはいえ、悪い点も多い。


まず、人間は打算の中にしか生きられず、利用し裏切りあうことしか出来ないのか、という問いに迫るには思い切りが足りなさすぎる印象を受ける。特に性的なことに触れる場合に顕著で、キャラからレイプという単語が飛び出しても実際には「絶対に」起こらない、そんな安全ネットが張られている。これなら最初から排除しておいた方が良かろう。このテーマに関してはあとがきのほうが余程よく書けているとも言える。


心情を「記述」してしまいがちな点もマイナスだが、丁寧に「描写」したところで読みにくくなるだけな気もして、むしろ言動だけで繋いでいけば良かったのではないかと思う。実際、地の文なしで長々と会話しているシーンが一番面白い。イベントを細かく組み立てたはいいが、それに心情の変化を一対一対応させてしまっているのがダメなのだろう。前作で「人物が描けていない」と評されたのも、あと今回も評されるであろうことも、この辺が原因か。


さて、このように色々悪い点はあるものの、やはり僕はいい作品だと思う。なぜなら、今作は、システムの外部に放り出されて問題を一時的に忘れた時点で終わりを迎えた前作よりも確実に地に足が付いており、暗黒の世界に放り出される一瞬、少なくともその一瞬には感情を共有できた、「その一瞬」の美しさを前作よりも純粋に味わうことが出来るからである。また、それ以前の話として、問題を外部的に取り除いて解決・解消させてしまうという最悪の手段に決して手を染めない作者の誠実さを評価せねばならないだろう。