しまなみのこと @お子様

大学生の長期休暇というものは、人生で最も暇な時間であるといつも思う。
それなのに、自分は暇な時間を活用するのがとても下手で、いつも家の中でダラダラしているだけで終わる。


ある日、雨が降っているにも関わらず、ふと思い立ってしまなみ海道に出た。
須波から船に乗って生口島の沢港へ。そこからいつもの道を通って瀬戸田港へ向かう。
小雨だった雨がそこで急に強くなり、導かれるかのように港の屋根を借りた。


(何でこんな日に来たんだろう…)
自転車を支えながら空を眺める。止むかな、止まないかな。止みそうに、ないな。
そこでふと気付く。自分の横に、同じように空を眺める少女がいた。黒い自転車に、大きな荷物。
珍しさもあったのか、不思議な縁を感じたのか、「ご旅行ですか?」と無意識に声をかけてしまった。


名前は朝倉音姫。なのにあだ名は「はる」。だから僕は「はる姉」と呼んだ。
日本一周をしているらしく、今日はしまなみ海道を渡って今治まで目指すらしい。
道が一緒ならば、と同行させてもらった。


海沿いの道を、雨に打たれながらゆっくりと走る。
今までの旅の話、実家の話、大学の話、ただそれだけで時間は通り過ぎていく。
しまなみの海は今日もおだやかで、しまなみの橋は今日も雄大で、ただそれだけで景色は通り過ぎていく。


あっさりと大三島橋の手前まで来た。もう少し一緒に旅をしたいけど、今夜の帰省のことを考えると少しツラい。
別れを惜しみながら一枚の写真を撮った。ひと夏の、たった1時間の、綺麗な思い出だ。



しまなみで過ごした時間は、彼女の旅の一部としてしっかりと残っているだろうか。
そんなことを考えながら帰路についた。