いつもいつもそれっぽく始まってそれなりに盛り上がって最後しっかりダメになる愛すべきブランド・PULLTOP
(http://d.hatena.ne.jp/hajic/20061004)


hajicさんのPULLTOPへの愛あふれるエントリーから言葉を借りさせていただくと、「それなりに盛り上が」る部分を叩いて延ばして平均化したような出来。悪くありません。余計な考察を除いた素直な感想としては、久しぶりに超能力とかが出てこない話が読めたってだけで満足。ヘタに超能力に手を出さないのは重要な姿勢だと思います。本当に。ただそれでも、この程度の作品が2006年度の最高傑作とも呼ばれているのは悲しいとは思います。





主人公、滝沢司。おーれはほのおのてーんこうーせいー
ネットの感想を見て回ってみると、彼女らの問題の解決に当たって、「司がなにもしていない」、「展開がご都合主義だ」といった不満が見られるが、司が無力であることなど初めからわかりきっていることである。
一人の男がトラウマを乗り越えて一人の女性を愛する勇気を持つ、という最重要のライン自体は十分描かれている*1わけで、あとはハッピーエンドにしたかったから凄く運のいい事が起こって彼女らの背負う問題は解決しました、でいいんじゃないかと思う。栖香ルートに至ってはOVAジャイアントロボみたいなオチだが、それでもだ。


それにその問いに対する回答は邑那ルートに用意されているのだ。このルートは実際に「抗いがたい力」の脅威が司の身に降りかかった上で抵抗を続けた場合のお話である。司は戦うべき場所ではちゃんと戦っている。それでいいではないか。それとも幻想水滸伝の主人公ばりの活躍をして風祭や陽道を打倒しろとでもいうのだろうか。
僕は邑那ルート、というか邑那ルートに収束する分校編というひとまとまりの物語が一番気に入った。家の間の抗争の下りは粗を探せばいくらでも出てきそうだが、情報量が多いため深く考えなければ緊張感を味わえる*2。光の当て方次第で物の見え方は変わる、というテーマのために3つのルートが効率的に配置されているのも評価できる。この点、本校編の梓乃ルートとみやびルートではやっていることが半分以上同じであり、冗長である。


また、本校ルートでの司と分校ルートの司が違いすぎるとか、分校の司はヘタレだとか言われているが、そんなに違わないだろうと僕は思う*3。二者の違いはエンディングの時点までで家という「抗いがたい力」が実際に脅威として現れているかどうかに過ぎない。そもそも周囲にいる人間があれだけ違えば性格違って見えるって。
分校編の司がエロいことばっかり考えてて不愉快だ?そんなにストイックな主人公がいいならエロゲーなんか買うのはやめた方がいい。エロくてこそのエロゲーです。


こんなもんかなあ。良くも悪くもPULLTOPらしいというか。いや、いい作品だと思うよ、うん。
PULLTOPは多分バランス感覚がいいんだと思う。絶対に巧くはないんだけど、己の力量を自覚してるからそうとんでもない失敗はやらかさないっていうか。


余談。奴らはシュールストレミングをどうやって手に入れたのだろうか。作中で言及されたとおり缶詰の中で発酵が進んでおり、空輸すると気圧の低さにより破裂するので輸入できない…と「もやしもん」に書いてあった気がするが。冷却・加圧して空輸したんだろうなきっと。


この話はまだ続けます。乞うご期待。需要ゼロなのは自覚した上で乞うご期待。

*1:そう、3年間も女の子に無理を強いた挙句におててを引いてもらってようやく自分と向き合えたクリスくんなんかよりずっと立派ではないか

*2:これはほめ言葉。本質的でない部分は適当にそれっぽければいいのである。Keyの作品について「深く考えなければ感動できる」と評するのとは根本的に意味合いが異なる。そもそもあまりリアル指向にしすぎるとホントに絶望的な状況になっちゃって作劇が非常に難しくなるだろう。そっちに挑んでなおテーマを描ききったら神。

*3:レビューの類は殆どライターさんが違うことをとっかかりにしているが、本来はゲームのパッケージに入っている情報は全て等価にかつ一まとまりに考えるべきだと思う