岡崎律子さんの三回目の命日に。

シンフォニック=レイン DVD通常版

シンフォニック=レイン DVD通常版


シンフォニック=レイン(以下SR)とは、工画堂スタジオから発売された美少女アドベンチャーゲームである。
お話は、

雨が止むことなく降り続ける街ピオーヴァは、音楽家を夢見る若者達が集う、音楽の街でもありました。
クリス=ヴェルティンは、恋人のアリエッタが暮らす生まれ故郷の田舎街から遠く離れ、
彼女の双子の妹トルティニタと共に、街のシンボルであるピオーヴァ音楽学院に通っていました。


魔導奏器フォルテールの奏者、フォルテニストになることを目指し、
クリスがこの街に来てから2年以上の月日が流れ、季節は冬……。
あと数ヶ月で卒業を迎えるクリスは、フォルテール科の卒業課題として、 一月半ばの発表会で、
歌唱担当のパートナーと共に、 オリジナル曲を合奏しなければなりませんでした。


しかしクリスは、未だにそのパートナーさえ決めようともせず、ただやる気のない毎日を送り続けていました。
週に一度届く恋人からの手紙と、
この街に引っ越して来たときに出会った部屋の居候、身の丈10センチほどの小さな音の妖精フォーニが、
彼の世界のすべてでした。


 雨――いつまでも、止むことなく降り続ける雨。


雨音が奏でるメトロノームにのせて、魔導奏器フォルテールの音色を響かせましょう。
クリスの奏でる音色と、音の妖精フォーニの歌声が重なり、響き渡る時、
何かが起こるのでしょうか?


……さぁ、妖精の歌を奏でましょう。

(http://www.kogado.com/html/kuroneko/sr/top/top.htm)


といったところなのだが、今回重要なのはここから。

シンフォニック=レインは『雨が止まない街』という、一風変わった舞台設定になっておりまして、
そしてその街にある音楽学院で繰り広げられる、学園物語です。


今作の企画でまず目指したのは、絶えず降り続ける雨……
雨音と、背景に流れる音楽で、儚げで切ない『音の空間』を演出するということでした。
その時にすぐに頭に流れたのは、岡崎律子さんの奏でる、儚くも美しいメロディーでした。
それから少し色々とありまして現実に、岡崎律子さんを起用できるという幸運に恵まれたのです。

(http://www.kogado.com/html/kuroneko/sr/staff/staff.htm)


そう、SRはその最重要の要素である十の歌(4人のヒロインがそれぞれ卒業演奏とEDとで2つずつ、OP、さらに本当に最後のEDで合計10)のすべてで岡崎律子が作詞作曲を務めており、亡くなってから三年を数えた彼女の遺作と呼ぶべき作品…なのだが、売れたという話を聞いたことがない。
確かに斬新な方法論が用いられているわけではない。全体的には高い完成度を誇るものの、ある大きな傷を抱えている*1。物語も、激しい戦いが繰り広げられるわけでもなく、世界の秘密に触れるわけでもない、地味といってしまえば地味な話だ。だが『世界』とは、所詮は自分に見えている物全てのことに過ぎないのだ。SRに触れた者はそれを強く意識することになる。


嘘とは、虚構とは何だろう。
嘘でもいいではないか?それで悲しみを忘れ、楽しく過ごせるのならば。つらい現実に生きる必要は無い。いや、嘘だと気付いてしまわなければ、それが現実になるのだ…
だが、他人が見ているものと自分が見ているものがかすりもしないほど違ってしまうと、自分の世界を守るためには完全に孤立せざるを得ず、結果として生きていくことが出来ない。
ではどうすればいいのかというと、結局のところ、何事も程々が一番、ということなのだろう。
この結論はつまらないようでいて、実際にそう考えるには困難を伴う。相反する事柄を同時に認めること、つまりは世界が不完全であると認めることを意味するからだ。


SRに登場する少女たちはみなそれぞれが何かしら嘘をついている。それらは時に自分勝手で、卑しい。
でも彼女らの歌を聴き終えたならば、誰が彼女らを責められるだろうか。
晴れの日も雨の日も、真実も嘘も包み込んで流れる優しい祈りの歌。彼女らの心を誰よりも理解した者があの歌を書いた。それがわかる。幾多の作品(主にアニメだが)に曲を提供してきた岡崎の仕事の中で間違いなく最高の仕事のひとつである。


SRには、フォーニという音楽の妖精が登場する。彼女の歌は「この世のものとは思えない」と表現され、それが何と重なるかは言うまでもない。
作品がつくられた当時の作り手の状況を読み筋に絡めるのはある意味で下品だ。が、これくらいは許されるんじゃないか、と思う。音楽の精が最後に残した10個のメロディーに、『彼女』が人生の果てで導いた結論がいくらか含まれていると信じたい。僕は『彼女』の祈りを感じる。その祈りを聴き、これに応えたいと思うならば。


シンフォニックレインしたまえ』(僕にプレイするきっかけを与えてくれた方のアドバイスに従ってみました)。
ちなみにこのSR、岡崎さんのファンの方たちだけでなく、声オタにもオススメである。なにしろ中原麻衣笠原弘子浅野真澄折笠富美子浅川悠といったすさまじい布陣なので。

*1:ただしその傷も解釈次第では…