「負け組おんらいん」 @お子様

知的障害者の作業所。その福祉の仕事に就いてもうすぐで一年が経つ。
近くの店で働くと知り合いが来るから嫌だ。人とはちょっと違うことがしたい。そんな理由もありながら、舞い込んできたバイトになんとなく乗ってみた。


時給は730円、第一以外の毎週土曜に9時〜15時半までの6時間半契約。交通費は往復1500円かかるが、そのうちの500円しか支給されない。
もともとはバイトをする気などなかった。しかしたまには私だってお菓子を食べたいしゲームも買いたい。仕送りは十分すぎるほど貰っているが、私用でそれを使う権利は私には無かった。
だからお小遣い程度に稼げれば、と、普通の人なら迷わず横に振る首を縦に振っていた。


知的障害者と過ごす6時間半。
彼らが何をしたいのか分からないし、いざコミュニケーションを取る場になるとどう返せばいいか分からない。
ひたすら、職員さんの真似事をしてコミュニケーションのパターンを身につけていった。トイレ介助もよく分からないし、食事介助もよく分からない。試行錯誤の日々。


そんなある日、職員さんからあるものを手渡された。
「利用者の○○さんの、親からです。連絡帳には『いつもお世話になっているというお子様さんに渡してください』と書かれてたので」
受け取らずに断ろうと思ったが、渡されたものは手作りの額で、中には押し花。手作りと聴いてしまうと、もう断ることのほうが失礼だった。


いつも言われるありがとうの言葉とはまた重みの違った感謝。なんて綺麗な感情なのだろう。
しかし、私にこれを受け取る権利があるのかといえば、正直なところない。
確かに親身にしている利用者さんではあったし、向こうからも信頼されているのかよく声をかけてくる。だが、私が何をしたのかというと、何もしていない。
ただ彼と少しの時間を共有しただけだ。人によってはそれだけで大きいことなのかもしれないが、私にとってはこの押し花は大きすぎる勲章。
だからもうちょっと頑張ろうと思う。受け取った感謝を誇れる人間になろう。



そんな気持ちにさせてくれる花。

〜福祉って綺麗です〜
福祉は一緒にいることだ、と一年かけて思いました。
一緒にいるだけで、その人は散歩に行けるようになる。その人は買い物にいけるようになる。
一人ではなく、手をつないで二人になろう。そうすれば、どんな障害者も健常者と同じようにこの世界を楽しむことができる。