白箱

無機質なその白い箱には、レリーフと共に伝承が添えられている。
『この箱に入った者よ。願いを一つだけ叶えよう。』
簡潔でありながらも実に大仰な言葉。そして、その言葉を信じ、数年前に姿を消した10人の少女たち。
自らの夢を叶えるため、白い箱の中を今も生きているのだろうか?


男勝りな少女がいた。
「いつか必ず頂点に立つ」と、夢を語り続けていた。
内気な青年がいた。
「君の夢を応援するよ」と、少女の背中を見送った。


手を伸ばす。しかし、白い箱には手が届かない。
声をかける。しかし、白い箱は奇妙な音をたてるばかり。
青年は日々に絶望をする。


「箱の中の少女が戻ってきた!」
その報せを聞きつけたのは、つい今朝のことだ。
騒ぎが起こる人だかりをかき分け、中へと進む。


箱の中にいるはずの少女が、そこにいた。
変わらぬ笑顔で、変わらぬ姿で。
人前にも関わらず抱き寄せた。大粒の涙がこぼれる。


「やっと、会えたね…真…」