松苗あけみ高野文子 ―”普通”の少女マンガにおけるセクシャリティーの転回点としての80年代―

少女メディア研究の講義レポート五回目。
windows100の6月号にこの講義の記事が載っているようです。マジでハジマタ\(^o^)/。



今週は松苗あけみの『僕は天使に嘘をつかない』と高野文子の『絶対安全剃刀』に収録されている「玄関」についての講義。


僕は天使に嘘をつかない

登場人物の名前に意味をこめる

例:生方鮫行→「ウブな方に鮫が行く」という物語を要約するようなデノデーションの他に、ウブと鮫(=悪)という二項対立が一人の登場人物の中にあることを暗示。
この手法自体は古くから行われており、むしろ時代遅れな奇妙なやり方。

紋切り型とその異化

少女マンガにおける紋切り型を用いながらもそこからの逸脱と異化を図る。
佐井藤先生のポーズや時代錯誤的な台詞回しが紋切り型であること自体が異化作用として機能し、自ら紋切り型であることのメタメッセージの意味を持つ。
「心の声」はキャラクターの心情を語るというマンガのルールを逸脱し、嘘を語らせることで笑いを作り出す。

複雑な表現技法

佐井藤先生の幻覚であると読者には思わせておきながら、実は生方の夢であったという二人の幻想のクロス。
複数同時進行をする物語の対応性。(例:食事のシーン、男女の対峙のシーン)

引用、書き込みによる異化効果

蝶と花のシーンのようにテーマにそった対立する二つのイメージを一つに収める。

セクシャリティーの行方

ギャグマンガをふくむマンガに性行為を導入する画期性。
一ページ目から性行為を連想させるシーンで始まるという衝撃的な始まり方。
最終的に好と生方をカップルにすることで”愛のある性行為は描写可能”という旧いロマン主義的少女マンガのモラルに準じる。

ジェンダー

男はロマン主義を引きずっており、女性は自立して自分の意思で自己実現する。
ジェンダー的に見るとかなり進んでいるが、ジェンダー論を押し出しているわけではない。

髪の毛の記号性

色(白と黒)や縛られた髪と解かれた髪の対立。
特に解かれた髪は性的抑圧からの解放や性行為のシンボル。


全体安全剃刀

『絶対安全剃刀』という短編集全体の特徴

話ごとに絵柄やタッチを変える、アイデンティティーの故意的な喪失。
岡崎史子なども行っているが彼女の場合は前衛のための前衛という意味合いが強い。


「玄関」

回想と話法の複雑性

現在のシーンとして扱われる回想シーン。作中に現在のシーンは一ページ目の最後の段のみ。
回想中の更なる回想をコマの欠けや絵のタッチで表す。

視点

えみこの視点と神の視点の交錯。

大人のいない世界

きちんとした大人はほとんど描かれない。子供の世界。

絵柄

デフォルメの違いによるキャラレベル(子供⇔少女)の区別。
通常の精神状態と溺れかけた状態の世界の見え方の書き分け。リアリズム。


女性性の獲得と「玄関」

終盤えみこが涙をぬぐうシーンの腕の肉感性。
母親とえみこが相似となっているシーン。
幼女から少女の「玄関」にえみこがいる(身体的にもえみこが少女を受け入れる)。


今週の名言

講師A「僕は少女マンガを理解できないし、絵柄が受けつけられないんですけど・・・」